ビスマスは安定に扱える元素の中で最も重い元素です。重い元素は水銀やポロニウムのように猛毒物質が多いのですが、ビスマスは例外的に毒性が低く、経口投与が可能な整腸剤としても用いられています。また、比較的安価であることが特徴ですが、その利用は合成試薬や金属材料への添加剤等に限られていました。

当研究室では、過去に新たな有機ビスマス化合物としてビスマス導入ローダミンを開発し、赤色光の照射により深赤色の蛍光と光増感作用(光により酸素を活性化する作用)を示すことを明らかにしています。本研究では非対称なビスマス導入型ローダミン色素BiRNHおよびBiRAcを合成し、この2つの特性を比較した結果、ビスマス導入型ローダミンは、アミノ基をアミド基にすることにより、光増感作用と蛍光が抑制されることを見出しました(図1a,b)。そこで、がん細胞で活性化されている酵素の一つ、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)でアミド部位が切断されるように設計し、狙ったがん細胞でのみ蛍光?光増感作用を発揮する化合物BiRGlu(図1c)を開発しました。

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BiRGluをGGT高活性のがん細胞であるA549細胞に投与したところ、時間経過依存的に蛍光が増大する様子が観察されました(図2)。また、蛍光が増大したところで光を照射したところ、がん細胞が死ぬ様子が観察されました。この蛍光の増大と光照射による細胞死はGGTの活性を止める試薬(GGsTOP)を添加することで抑制され、また、GGT活性の低い細胞(SKOV3ip1)では細胞死が見られなかったことから、GGT高活性ながん細胞選択的に機能することがわかりました。赤色の光を照射して蛍光と光増感作用の両方が見られる色素は無く、ビスマスを使った新しい化合物の可能性を拓く成果であると言えます。また、本化合物を使い、診断と治療を同時に行うセラノスティクスの実現も期待できます。

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本研究成果は、岐阜薬科大学薬化学研究室の向峯 あかり氏(大学院博士課程学生、写真中央)、平山 祐准教授(写真左)、永澤 秀子 教授(写真右)らによりイギリス王立化学会誌「Organic & Biomolecular Chemistry」に公開されました。

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本研究成果のポイント

ビスマス導入型ローダミンは当研究室で開発したものが唯一の報告例であり、その光機能の制御に成功したのは世界初である。

がん細胞に高発現している酵素を標的とすることで、がん細胞の発見と治療を同時に実現できるセラノスティクス薬としての応用が期待できる。

論文情報

  • 雑誌名Organic & Biomolecular Chemistry
  • 論文名Asymmetric bismuth-rhodamines as an activatable fluorogenic photosensitizer
  • 著者Akari Mukaimine, Tasuku Hirayama*, Hideko Nagasawa
  • DOI番号10.1039/D0OB02456B

研究室HP

https://yakka-gifu-pu.jp