岐阜薬科大学

低分解性抗ウイルス薬の開発を目指したアビガンの分解機構解析
~炎症器官で作用する抗ウイルス薬の開発に向けて~

概要

岐阜薬科大学機器センター研究室 中山講師、岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科 本田助教の研究グループは、抗ウイルス薬アビガン(T-705)の活性酸素による分解メカニズムを報告しました。この反応は、生体免疫による炎症器官でのアビガンの代謝?不活化要因の一つと考えられます。本研究成果は2021811日にアメリカ化学会発行の学術誌「ACS Omega」に掲載されました。

研究成果

国际足球_欧洲冠军联赛-博豪联盟(SARS-CoV-2)の蔓延とCOVID-19パンデミックに際し、アビガン(Favipiravir, T-705)、レムデシビル等、多くの抗ウイルス薬のドラッグリポジショニングが検討されてきました。しかし、効果の高い抗ウイルス薬は少なく、また効果的な新薬の開発にも至っていません。これは、ウイルス型の変異が頻繁に発生する、または特性が不明な新ウイルスに対して、高効率の抗ウイルス薬を準備する難しさを示唆しています。抗ウイルス薬とは、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を選択的に競合阻害する薬剤のプロドラッグであり、その構造がRNAヌクレオチド(アデノシン三リン酸、グアノシン三リン酸等)として誤って認識され、ウイルス複製を阻害するという事実に基づいています(Figure 1)。RdRpドメインはヒト細胞には存在しないため、このメカニズム(アナログ効果)は明確ですが、期待される効果は得られていません。

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Figure 1. アビガン(T-705)はウイルスRNAの複製酵素を阻害することで増殖を抑制する

本研究では、上記要因について、アビガンが生体内での代謝分解して期待される活性型薬剤濃度が得られないためと考え、特に生体免疫下で多量に生成する活性酸素による分解機構に着目しました。抗ウイルス薬は、アナログ効果によってウイルスの増殖を防ぎますが、感染したウイルスを分解することはできません。したがって、ウイルスの増殖を防ぐと同時に、免疫応答を使用してウイルスを分解する必要があります。生体の免疫系には、好中球、マクロファージ、キラーT細胞、各種サイトカインなど、多くのタンパク質や細胞が関与するシステムが確立されており、感染防御に貢献しています。そして免疫シグナルが伝達されますが、その最終段階では免疫細胞内で活性酸素の一つであるスーパーオキシドラジカルアニオン(O2?-)を生成して、ウイルスなどの異物を酸化的に分解します。つまり、ウイルス性の炎症を起こした器官では、多量のウイルスと多量のO2?-が存在し、その中で抗ウイルス薬が作用することが求められます。

今回、著者らが解析した反応では、分解性が低いと考えられていたアビガンが、O2?-との間の反応で、容易に分解する様子を示しています。この反応機構は、プロトン電子共役移動反応(proton-coupled electron transfer: PCET)が分子構造の変化(官能基の旋廻)を伴いながら進行し、ピラジン骨格の早い分解反応が後続して進行します。

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Figure 2. O2?-によるアビガン(T-705)の分解メカニズム(分子構造変化とPCET反応の協奏反応)

当解析結果で得られた知見を基に、生体免疫下でも活性酸素に分解されない新規抗ウイルス薬の開発を目指しています。炎症器官での分解率を抑えることで、低用量で活性型薬剤濃度を最大化し、また生体内の滞留率を高めて、実質的な抗ウイルス効果を高められると期待しています。

本研究成果のポイント

  • 活性酸素(O2-, HO2?等の派生化学種)によるアビガンの分解メカニズム(PCET反応+構造変化)が明らかとなった。
  • 当メカニズムを介した分解を防ぐ分子構造改変により、免疫下でも活性酸素に分解されない新規抗ウイルス薬の開発を目指す。

論文情報

  • 雑誌名:ACS Omega
  • 論文名

    Electrochemical and Mechanistic Study of Oxidative Degradation of Favipiravir by Electrogenerated Superoxide through Proton-Coupled Electron Transfer

  • 著者:Tatsushi Nakayama and Ryo Honda
  • DOI番号:10.1021/acsomega.1c03230

研究室HP

http://gifu-pu.jpn.org/