概要

感染制御学研究室 近藤紘生(B6)、腰塚哲朗 准教授、井上直樹 前教授らの研究グループは、新しい作用機序を持つ抗ヘルペスウイルス化合物を同定しました。本研究成果は20211110日付けで国際学術誌「Antiviral Research」に受理されました。本研究は、福島県立医科大学 微生物学講座 錫谷達夫 教授らとの共同研究です。

ヒトを自然宿主とするヘルペスウイルス科のウイルスは9種類知られており、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)やヒトサイトメガロウイルス(HCMV)などがその代表例です。現在、いくつかの抗ウイルス薬がヘルペスウイルス感染症の治療に利用されていますがその作用点は限られており、副作用や長期使用による耐性化の問題から新たな作用点をもつ抗ウイルス薬が求められています。

感染制御学研究室では、この問題を解決するために抗ウイルス活性を持つ新しい化合物を探索しています。今回、私たちは抗HSV-1活性と抗HCMV活性を併せ持つ化合物147B3を同定しました。解析の結果、147B3はウイルスの増殖に必須な転写調節因子を標的としていることが分かりました。本研究成果は、新しい作用機序を持つ抗ウイルス薬の開発に加え、ヘルペスウイルスの増殖機構を理解するための研究に繋がると考えています。

背景

HSV-1HCMVはヘルペスウイルス科を代表するウイルスです。いずれのウイルスも小児期に初感染した後、生涯にわたり私たちの体内に潜伏感染します。潜伏感染状態にあるウイルスは病気の原因とはなりませんが、宿主免疫能の低下や紫外線照射、生理、ストレスなど様々な要因で再活性化し、様々な病気の原因となります。HSV-1は口唇ヘルペス、角膜炎、皮膚病などに加え、ヘルペス脳炎を引き起こします。HCMVAIDSや移植医療による免疫不全者において、日和見感染の原因となることが知られています。また、HCMVが妊婦に感染すると胎児に先天性感染し、死産、流産に加えて、児に発達遅滞や難聴を引き起こす場合があります(先天性CMV感染症)。これらの感染症の治療にはガンシクロビル(GCV)やアシクロビル(ACV)などの抗ウイルス薬が用いられていますが、副作用の問題や長期使用によって耐性ウイルスが発生する可能性があります。このため、新しい作用機序を持つ抗ウイルス薬が求められています。

研究の手法と結果

ウイルス増殖に伴いルシフェラーゼ*1を発現するように改変した遺伝子組換えHCMVを用いて、9,600化合物のスクリーニングを行い、HCMV増殖を抑制する化合物を探索しました。得られた候補化合物のひとつである147B3について、詳細な解析を行いました。解析の結果、HSV-1についても同様に増殖を抑制することが分かり、本研究ではHCMVHSV-1の両者に対する抗ウイルス効果を検討しました。

*1 ルシフェラーゼ:ホタルなどが持つ発光反応を触媒するタンパク質。

ヘルペスウイルスの増殖過程は大きく、前初期?初期?後期に分けることが出来ます。前初期は感染した細胞をウイルス増殖に都合が良いように作り変える時期であり、ウイルス由来転写調節因子などが産生されます。初期には、前初期に作られた転写調節因子を使ってウイルスのポリメラーゼなどが作られ、ウイルスゲノムDNAの複製が起こります。後期にはウイルスの形を作るタンパク質が産生され、ゲノムDNAを含んだ感染性のウイルス粒子が作られます。147B3がこの感染過程のいずれのステップを阻害するのかを様々な方法により検討したところ、HSV-1HCMVのいずれにおいてもウイルスゲノムDNA複製前の段階(すなわち前初期~初期)を阻害していることが分かりました。

HSV-1HCMVより増殖が速く実験に使いやすいウイルスです。この特徴を利用し、HSV-1を用いて147B3に耐性を持つ変異株を分離しました。HSV-1感染細胞にウイルス増殖を抑制しない程度の濃度の化合物を添加することで147B3に耐性を持つウイルスを増やした後、化合物の濃度を上昇させ、本来増殖できない濃度でも増えるウイルスを分離し、耐性株として解析を行いました。得られた耐性株についてEC50*2を測定したところ、親株と比べて数倍に上昇していることが分かりました。

*2 EC5050%効果濃度。本研究ではウイルスの増殖を50%抑制する濃度を示す。

次に、次世代シークエンサーにより耐性株ゲノム配列を決定し、変異部位の同定を行いました。その結果、すべての耐性株において、HSV-1の転写調節因子であるICP4に変異が生じていることが分かりました。ICP4は前初期に発現するウイルスタンパク質であり、様々なウイルス遺伝子の発現を制御します。ICP4147B3の標的であることは、147B3添加によりウイルスゲノムDNAの複製が阻害されることと矛盾しません。また、ICP4は感染細胞の核内に凝集体(viral replication compartment)を作りますが、147B3添加時にはICP4の核内凝集体が消失していました。

HCMVICP4に類似した機能を持つ分子としてIE2という転写調節因子を持ちます。147B3IE2機能に与える影響を検討したところ、147B3添加によりIE2依存的なウイルス遺伝子発現が抑制されていることが分かりました。

以上の結果から、147B3はウイルスの転写調節因子を標的として抗ウイルス効果を示していることが明らかとなりました。

本研究成果のポイント

化合物147B3の抗ウイルス効果はHSV-1HCMVの転写調節因子を標的としていることが分かりました。HSV-1ICP4を直接の作用点として持つ化合物はこれまでに報告されておらず、本化合物は新たな抗ヘルペスウイルス治療薬のリード化合物となる可能性があります。今後、構造活性相関による細胞毒性の軽減に加えて、詳細な作用機序の解明を行っていく予定です。

論文情報

  • 雑誌名:Antiviral Research
  • 論文名:Characterization of a thiourea derivative that targets viral transactivators of cytomegalovirus and herpes simplex virus type 1
  • 著者

    Hiroki Kondo , Tetsuo Koshizuka , Ryuichi Majima , Keita Takahashi , Ken Ishioka , Tatsuo Suzutani , Naoki Inoue

  • DOI番号10.1016/j.antiviral.2021.105207

研究室HP

https://www.gifu-pu.ac.jp/lab/kansen/