岐阜薬科大学

背景

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)は、いくつかの抗悪性腫瘍薬が原因で起こる末梢神経障害です。末梢神経障害では痺れや痛み、手足に力が入らないといった症状が見られ、QOLを大きく低下させます。抗がん剤の減量や中止に至る場合もあり、治療効果へ影響を与えてしまいます。また、CIPN は薬剤服用後早期に発現する場合と、長期経過してから発症する場合があり、原因薬剤の投与を続けると症状が進行し、投与を中止しても回復が不十分となることもあります。日本の副作用自発報告データベースを使用して、抗がん剤とCIPN発症の関連性と、CIPN発症までの時間と転帰について評価しました。

研究の手法と結果

解析には日本の医薬品有害事象自発報告データベースであるJADERを用いました。臨床現場では、患者背景が複雑で、臨床試験の結果と必ずしも一致するとは限りません。実臨床における医薬品の安全性の検討を行うために、医療機関や製薬企業等からの報告が集積された自発報告データベースを用いて解析を行いました。

解析対象期間は2004年4月から2020年3月です。有害事象の定義については、医学用語集MedDRAに準拠し、基本語(PT)を使用しました。また、解剖治療化学分類法で「抗悪性腫瘍薬と免疫調節薬」に分類された薬剤を解析対象薬剤としました。

評価は、報告オッズ比ROR、有害事象時間解析、転帰の3つに着目して行いました。

報告オッズ比RORはシグナル検出方法の一つであり、95%信頼区間の下限値が1より大きい場合にシグナルありとし、医薬品と有害事象に関連性の疑いがあることを示しています。先行研究でCIPN誘発薬剤とされているビンカアルカロイド類、タキサン、白金化合物、ボルテゾミブ、サリドマイドについてシグナルが検出されました。

次に有害事象時間解析を行いました。JADERに含まれる投与開始日と有害事象発現日の日付データから有害事象発現までにかかった日数を算出し、Weibull分布を用いて有害事象発現時期を検討しました。ピリミジン類似体、ビンカアルカロイドと類似体、タキサン、白金化合物、その他の抗悪性腫瘍薬、その他の免疫抑制薬による末梢神経障害は半数以上が4週間以内に観察されました。特にビンカアルカロイド類似体は、中央値が11日と、半数以上が2週間以内に末梢神経障害を発症することがわかりました。また、Weibull分布のβの値から、タキサン、モノクローナル抗体、その他の抗悪性腫瘍薬、その他の免疫抑制薬による末梢神経障害は早期に起こりやすいと考えられます。

JADERには、転帰に関する記載もあります。プリン類似体、タキサン、白金化合物、モノクローナル抗体において、約半数が未回復、後遺症ありまたは死亡の転帰を示しました。

報告オッズ比の算出により、ほとんどの解析対象薬剤でCIPNのリスクが示唆されました。有害事象時間解析の結果により、CIPNの発症時期は投与後4週間以内に集中しており、CIPNの関連が疑われる医薬品について少なくとも二ヶ月の注意深いモニタリングの必要性が示唆されました。転帰については、薬剤ごとに違いが見られ、回復が見込めないものも多く、早期的な対処が必要であると考えられました。

本研究成果は、岐阜薬科大学 医薬品情報学研究室 井上実咲氏(国际足球_欧洲冠军联赛-博豪联盟5回生)、?田悠羽氏(国际足球_欧洲冠军联赛-博豪联盟5回生)、佐竹梨香氏(国际足球_欧洲冠军联赛-博豪联盟 5回生)、長谷川栞氏(博士課程 1回生)、池末裕明氏((公財)神戸医療産業都市推進機構)、 橋田亨氏 ((公財)神戸医療産業都市推進機構) 、Jun Liao (Department of Pharmaceutical Informatics and Biological Statistics, School of Science, China Pharmaceutical University 教授)、中村光浩氏 (岐阜薬科大学 教授)らにより、英文学術誌「scientific reports」に掲載されました。

また、日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(C)(Grant Number, 17K08452) の支援の下でおこなわれたものです。

本研究成果のポイント

  • 化学療法誘発性末梢神経障害の実臨床での発現プロファイルを明らかとした。
  • 抗がん剤による化学療法誘発性末梢神経障害の発現時期の違いを統計学的に示した。

論文情報

  • 雑誌名:Scientific Reports. 2021. 11, 11324
  • 論文名:Analysis of chemotherapy-induced peripheral neuropathy using the Japanese Adverse Drug Event Report database
  • 著者: Inoue M, Matsumoto K, Tanaka M, Yoshida Y, Satake R, Goto F, Shimada K, Mukai R, Hasegawa S, Suzuki T, Ikesue H, Liao J, Hashida T, Nakamura M
  • 論文URLhttps://www.nature.com/articles/s41598-021-90848-6
  • DOI番号:10.1038/s41598-021-90848-6